薬剤部長あいさつ
病院薬剤師の役割は年々多様化しています。医薬品の適正使用とは、いかに有効に使用するか(有効性)、いかに安全に使用するか(安全性)、いかに安価な薬剤を選択するか(経済性)であり、薬を扱う専門職として、質が高く、安全な薬物療法の提供と並び、病院経営にも寄与することが求められています。
また、院内の様々なチーム医療に携わり、薬剤に関する情報提供や薬剤選択の提案を行うなど、チームの中での重要な役割を担っています。
当院では、木曽地域の患者さんが退院後も安心して生活できるよう、地域薬局との連携を強化する取り組みとして、昨年度から木曽地域薬薬連携研修会を行っています。入院時、退院時に切れ目のない薬物療法が継続できるよう今年度も努めてまいります。
私たち薬剤師が自分の知識や経験を活かし、薬剤部として、病院としてのチームワークで患者さんやご家族の笑顔を増やしていかれるよう、また、メンバーがやりがいを感じ、生き生きと笑顔で業務を行えるよう心理的安全性の高い職場つくりを目指します。
(令和7年7月 鈴木 涼子)
調剤業務

医師の処方箋に基づいてお薬を作ることを調剤といいます。患者さん個々の状態に合わせて、おくすりの量や服用方法、使用方法が正しいか、飲み合わせに問題はないかを確認してから調剤を行います。
外来患者さんや退院する患者さんには、お薬の作用や注意事項が記載されたお薬の説明書をお渡ししています。
院外処方箋について
当院は院外処方を推進し、外来を受診した患者さんのお薬は原則として院外処方箋を発行しております。「院外処方箋」は診察終了時に各科外来でお渡ししますので、保険薬局へお持地いただき、お薬をお受け取りください。
院外処方箋の有効期間は、発行日を含めて4日間です。この「有効期間」には土日、祝日も含みます。有効期間を過ぎた処方箋は無効となりますのでご注意ください。
院外処方箋の再発行等の手続については、受付窓口にご相談ください。なお、再発行の場合は別途料金をいただく場合がありますので、あらかじめご了承ください。院内中央ホールに木曽薬剤師会でFAXを設置しておりますのでご利用ください。
電子処方箋について
当院は安全な薬物療法を推進するため、国が推進する電子処方箋を運用しています。木曽郡内のすべての調剤薬局が電子処方箋に対応し、木曽病院の処方箋は原則として電子処方箋を発行いたします。郡外の調剤薬局で電子処方箋に対応していない薬局をご利用の場合は診察時に医師にお伝えください。
一部の薬品や、保険外診療などは電子処方箋に対応していないため、紙の処方箋を発行することがあります。あらかじめご了承ください。
ジェネリック医薬品(後発医薬品)について
当院はジェネリック医薬品(後発医薬品)使用を推進しております。ジェネリック医薬品とは、新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に発売されるお薬で、新薬と同じ成分で製造された医薬品です。新薬の開発にかかる時間や開発費が必要ないため価格が安くなるほか、苦みを和らげる、水なしで飲めるといった工夫がされている製品もあります。ジェネリック医薬品を使用することで、医療費を減らすことができます。
医薬品の名称を一般名(有効成分の名称)で記載して処方することを一般名処方といいます。一般名処方では、有効成分が同じであれば、患者さんの要望に沿った形で先発医薬品でもジェネリック医薬品でも選ぶことができます。ご不明な点がありましたら、医師、薬剤師にご相談ください。
バイオシミラーとは
微生物などの生物の力を利用して作られる、タンパク質を有効成分(治療効果がある成分)とする新しい薬のことを「バイオ医薬品」といい、糖尿病の治療に使われるインスリンや、がんの治療に使われる抗体医薬品などさまざまな種類のお薬が製造され、使用されています。バイオシミラーとは、バイオ医薬品の特許が切れた後に発売され、バイオ医薬品と同じように使うことができる薬のことをいいます。
特許が切れた後に発売される「ジェネリック医薬品(有効成分が新薬と全く同じ医薬品)」と似ていますが、バイオシミラーは複雑なタンパク質を有効成分とするので、全く同じものを作ることが困難です。そのためバイオシミラーは、多くの試験を行って構造にわずかな違いがあっても、有効性や安全性が同等であることを確認しています。
バイオシミラーもジェネリック医薬品同様、新薬に比べ価格が抑えられているため、患者さんやご家族の負担軽減につながることが期待されています。
注射払い出し
入院患者さんに使う注射薬は、処方せんに基づいて、患者さんごと、一施用ごとにセット(取り揃え)を行い、病棟へ払い出しを行っています。
注射薬セットの際は、注射調剤・鑑査システム(以下iPZS)を用い、一薬品ごとにバーコードでチェックを行い、払い出しミスを限りなくゼロに近づけています。このiPZSは、各病棟にも導入しており、薬剤師不在時の看護師による注射薬取り揃えの際の安全対策として大変有効です。
また、iPZSを在庫管理システムと連動させることで、看護師による薬品請求の自動化、自動発注などの在庫管理の効率化にもつながっています。
TPN(中心静脈栄養輸液)の調製
当院では、経口や経管での栄養摂取が困難な患者さんに対し、中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)の調製を行っています。
調製は無菌的な環境で行い、患者さん一人ひとりの病態や栄養状態に応じて、医師の指示のもと薬剤師が正確に調製しています。安全性と有効性を最優先に、成分の安定性、相互作用や配合変化にも十分に配慮し、厳密な品質管理のもとで実施しています。
抗がん剤の調製
患者さん一人ひとりに合わせた安全で適切な抗がん剤治療を提供するために、医師の処方に基づき薬剤師が抗がん剤の調製を行っています。
調製は、安全キャビネットを使用した無菌環境下で実施しており、感染リスクを最小限に抑えています。また、閉鎖式器具を用いることで調製時および投与時の環境汚染や職員、患者さん・ご家族の暴露対策に努めています。
薬剤師が複数名で処方内容や投与量を確認し、調製でのミスを防止しています。
薬剤管理指導業務(服薬指導)

安全で効果的な薬物療法が行えるよう、入院患者さんの薬剤の使用歴や持参薬、副作用歴、アレルギー歴等を確認し、そのうえで患者さんのベッドサイドに直接出向いて、使用する薬剤について、効果や飲み方、自己注射薬や吸入薬の使用方法、注意事項等を説明しています。また、薬の効果や副作用等のモニタリングを行い、医師への処方提案や患者さんからの質問や相談にもお答えしています。
各病棟に病棟担当薬剤師を配置し、入院患者さんに対する薬剤管理指導業務を通して、医薬品の適正使用やリスクマネジメント等、薬剤師ならではの視点で治療に貢献しています。
持参薬管理
患者さんに処方された薬を入院中も安全に使用していただけるよう、入院時に薬剤師が薬の鑑別を行っています。現在使用中の薬がある場合は入院時にお薬手帳と一緒にお持ちください。
また、手術・検査を控えている患者さんに術前中止薬の説明も行っております。安全かつ安心して手術・検査が行えるように、外来時に現在使用している処方薬の確認はもちろん、市販薬・サプリメントの使用についても聞き取りをしています。処方薬に限らず、どんな薬でもご相談ください。
DI業務(医薬品情報管理)
医薬品が適正に使用されるよう、医師・看護師等の院内スタッフ、そして患者さんに医薬品情報を提供しています。
また、医薬品を適正に使用していたにもかかわらず、副作用により重篤な健康被害が生じた場合の救済制度である「医薬品副作用被害救済制度」の窓口業務も担当しています。詳しくは独立行政法人医薬品医療機器総合機構のページをご覧ください。
がん薬物療法(化学療法)について
当院で行われているがん薬物療法(化学療法)は、がん化学療法審査委員会で承認を行っています。承認されたがん薬物療法(化学療法)は、プロトコル(投与量、投与方法、スケジュールなど)に従い、レジメン※セットを作成し行われます。このレジメンセットは、患者さんの身長、体重、体表面積等から投与量を自動計算するようになっており、また副作用対策などの支持療法薬を組み込むことで適正な治療を提供しています。
薬剤師は、このレジメンセット作成などの管理に加え、レジメン鑑査(投与量や投与間隔、臨床検査値など)、抗がん剤調製、患者さん・ご家族への説明、副作用の確認、支持療法の立案など、薬の専門職として関わっています。
※レジメン:薬物療法を行う上で、薬剤の投与量や投与方法、治療スケジュールを明記した治療計画のことをいいます。治療計画は、がんの種類や治療法ごとに作成し、患者さんの状態に応じたレジメンが選択され治療が行われます。
当院で行われているレジメンを公開します。
また、保険薬局に向けて以下のような患者情報共有シートを用いて情報提供を行っています。
チーム医療への関わり
当院では、複数の医療専門職がそれぞれの職能を活かし、多職種チームとして患者さんのより良い治療とQOLの維持・向上をサポートします。薬剤師は薬剤選択をはじめ、投与量や投与方法、投与期間などの処方提案、さらには、薬剤の取り扱いについて他の職種にアドバイスをしたり、副作用の発現状況や有効性の情報を共有したりと、薬の専門家として病院スタッフと密に連携を取りながら、チーム医療に参画しています。
緩和ケアチーム
薬物療法の専門職として、医療用麻薬など症状緩和に用いる薬剤の詳しい情報を多職種チームで共有し、医師・看護師等と協議をしながらチーム協働の緩和薬物療法を進めています。また、早期(診断時)からの緩和ケアを提供できるよう、多職種チームで患者さんの情報を共有するよう努めています。
EBM(医学的根拠に基づいた治療)はもちろんですが、これに加えて患者さん個々の状態や希望に添った生活が行えるよう、趣味などの患者さんの生活についても良く聴き、寄り添うように心掛けています。
退院支援チーム
当院では、定期的に、退院支援に関わる多職種が集まり、現状や課題を共有し、より良い退院支援の在り方を話し合っています。薬剤師はこの中で、看護師や地域の介護職員などから寄せられた要望に対して、退院時のお薬説明をはじめ、薬剤師としてどのように支援できるかを検討・共有しています。また、退院後も継続して薬剤師のケアを受けられるよう、退院時共有シートなどを活用し、保険薬局との連携を図っています。
薬に関する情報は、患者さんの退院後の療養生活を支えるうえで非常に重要です。この情報が、患者さんご本人だけでなく、ご家族や医療・介護・福祉スタッフに確実に伝わるよう、今後も積極的に取り組んでまいります。
感染対策チーム(ICT)
感染対策に関する職員への指導や教育、院内の環境整備、抗菌薬の適正使用等を行い、他の職種と共に感染から患者さん・ご家族・スタッフの身を守るために活動しています。
抗菌薬適正使用支援チーム(AST)
抗菌薬の不適切な使用や漫然とした長期投与によって今ある抗菌薬が将来的に効かなくなる可能性があります。ASTは長きにわたって感染症治療を行えるように抗菌薬の使用を適切に管理・支援しています。
栄養サポートチーム(NST)
毎週1回医師、管理栄養士、看護師、薬剤師、その他医療スタッフを交え、チーム医療の一環として活動しています。高齢者の多い当院では様々な要因で低栄養状態となる患者さんは多く見られます。薬剤師は栄養サポートが必要な患者さんに対して、食事量の低下の原因となる薬剤はないか、現在の様態に対しての栄養のアセスメントは適正かなどの評価を行っています。適切な栄養管理、薬剤管理を通じて栄養状態を改善させ、治療効果の向上、褥瘡の改善、合併症予防につなげています。
またさらに令和7年より、本チームメンバーにソーシャルワーカー1名を加え、口腔ケアチームを発足しました。薬剤師として薬物療法に伴う口腔内副作用(顎骨壊死、口内炎など)の予防・改善、服薬アドヒアランスの向上、嚥下機能を考慮した製剤の選択を行い患者さんのQOL向上にも貢献しています。
認知症ケアチーム
高齢者や認知症患者さんが入院することにより生じる不安や混乱などの苦痛を最小限に抑え、安全に医療が受けられるよう、また、認知症患者さんに対する職員の知識と理解を深めるよう、医師、看護師、介護士、薬剤師、作業療法士等で構成されるチームで活動しています。
薬剤師は、認知機能低下を来たす薬剤の使用状況の把握や、お薬の減量、使用方法について提案を行っています。
褥瘡対策チーム
当院では高齢患者さんが非常に多く、褥瘡(床ずれ)が発生した状態で入院される方も多くいます。褥瘡対策チームでは、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ等の多職種で連携し、回診などを通して、発生要因の探索やケア方法の共有などを行っています。
褥瘡発生の原因は様々ですが、適切に薬剤が使用されないことで誘発することや、治癒が遅くなることがあるため、チームの一員としてリスク管理や外用薬の提案など、薬の適正使用を通じてより良い治療に努めています。
糖尿病サポートチーム
糖尿病サポートチームは「糖尿病患者・家族が、病気や治療についての正しい知識を身につけられるようサポートする」ことを目的に、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・臨床検査技師で構成されたチームです。糖尿病治療では、患者さん自身が病気を理解し、日常生活の中で正しい知識を持って自己管理を行うことが大切となります。年に数回ほど患者さんへ向けた糖尿病教室や糖尿病講演会を開催し、食事・運動・薬物療法等についてそれぞれの専門性を活かした情報提供を行っています。
フォーミュラリ
フォーミュラリとは
有効性、安全性、経済性などの観点から総合的に使用が推奨される医薬品集及び使用方針です。
標準薬物治療の推進、医薬品費の抑制および病院や診療所、保険薬局との連携による医療の質向上を目的として当院で作成したものを処方推奨薬リストとして公開します。
※本フォーミュラリを、企業のプロモーション等に利用しないでください。
地域とのかかわり
当院では、入院患者さんの調剤や服薬指導だけでなく、地域医療との連携にも大きく関わっています。通常の外来診療のみならず無医地区への巡回診療に同行しています。また、患者さんが地域社会のなかでも安心して生活できるよう、地域の医療機関や薬局と情報を共有し、薬物療法の継続を支援することも重要な役割として支援しています。
巡回診療
当院では、近隣に診療所がなく、交通手段のない高齢者の方々が定期的に受診できるよう、無医地区での巡回診療を実施しています。これにより、遠距離のため通院が困難な患者様にも、受診の機会を確保しています。
木曽病院では、令和5年9月より、巡回診療にオンライン診療を取り入れた試行を開始しました。現在は月に1回、巡回し、隔月でオンライン診察を行い、医師が現地に向かわず、遠隔で診察を行っています。この取り組みは、医師不足や高齢化が進行する地域における将来の医療環境を見据え、持続可能な医療提供を目指すものです。
巡回診療には、薬剤師も同行し、薬剤の説明や管理を行っています。医師の勤務体制が見直される中で、住居地に関係なく患者様が十分な治療を受けられるよう、薬の観点からもより良い医療提供をサポートしています。
地域薬剤師会との連携
患者さんが住み慣れた地域で、その人らしく安心して暮らしていけるよう、当院では地域薬剤師会と連携し、患者さんの視点に立った安全で質の高い薬物療法の提供に取り組んでいます。
薬剤の適正使用を推進するために、お薬手帳の活用を積極的に行うとともに、特に支援が必要な患者さんには、薬剤管理サマリを通じて保険薬局へ必要な情報を提供しています。また、木曽薬剤師会と協力して様々な研修会を開催し、顔の見える関係づくりや情報共有を行うことで、病院と薬局が連携して患者さんを支える体制づくりに努めています。
さらに、木曽地域にとどまらず、松本薬剤師会が主催する「中信がん薬薬連携」にも参加し、中信地域の病院薬剤師・保険薬局薬剤師とも広く連携を図っています。
薬薬連携研修会
当院では、地域の薬局薬剤師と病院薬剤師が連携を深め、医療の質を高めることを目的に、定期的に「木曽地域薬薬連携研修会」を開催しています。この研修会では、疑義照会事例のフィードバックや病院内の取り組み共有を通じて、情報交換と課題解決を図り、より安全で質の高い薬物治療を患者さんに提供できるよう努めています。
地域薬局の皆さまへ
- 疑義照会は、処方医へ直接行ってください。
- 疑義照会の結果、処方変更になる場合は「疑義照会記録票」により当院薬剤部あて情報提供をお願いします。
- 残薬調整の場合は、服薬状況の聞き取りを行い、患者さんへの指導内容について当院あてに情報共有をお願いします。処方変更等の提案もありましたらご記入ください。
トレーシングレポートについて
患者さんから得た情報(アドヒアランスや副作用等)を処方医にフィードバックするためのレポートです。
様式は特に定めておりません(任意の様式で構いません)。必要事項を記入し、FAXで当院薬剤部あてご提出ください。
また、がん化学療法に関する情報共有等については、がん化学療法トレーシングレポート(情報共有シート)を用いてください。
送付先:FAX 0264-22-3594
薬剤師募集について
薬剤部実績
新人薬剤師のひとこと