はじめに
長野県立木曽病院は信州大学医学部附属病院との連携により精度の高いがん診療に取り組んできました。2016年4月より地域がん診療病院の指定を受け、がんに関する診療や活動を行っています。信州大学や近隣のがん診療病院との連携を含めた専門的な診療のみならず、がん患者さんやそのご家族の支援を大事にしています。
モットーとしている「ゆりかごから看取りまで」を実践すべく、医師のみならず多くの職種が横断的に活動することを心掛けています。患者さんをがん診療の中心において、ご家族の皆さんそして様々な職種が手を携えて一つの輪を作り、より良いがん診療を提供すべく努力しています(図1)。
相談したいこと、不安なこと、ご希望など何でも、どのスタッフにでも、お声がけください。木曽地域唯一の有床医療機関として、専門医や様々な職種の認定資格の取得、そして医療チームの活動を通じてがん診療や診療サポートのスキルを磨いています。がんに関する広報として病院便りに「みんなで知ろう、がん」を季刊で話題を連載しています(図2)。皆さんのお声が木曽病院をさらに良くします。ぜひ、よろしくお願いします。
がん診療部長 副院長(外科) 小出直彦
当院で対応可能ながん診療
① 木曽病院では胃がん・大腸がん・肝がん・肺がん・乳がんの5大がんをはじめとして、泌尿器科や婦人科のがん診療にも対応しています。しかし、拡大治療や集学的な治療あるいは先進医療が必要な場合には、連携施設である信州大学医学部附属病院、または近隣のがん診療病院へ紹介して共同診療を行います。
白血病やリンパ腫などは信州大学からの派遣医師と協力して診療します。
小児がんは主に長野県立病院機構のこども病院に紹介、AYA世代と言われる思春期から40歳未満の若年性のがんは、当院で治療するか他院への紹介にて治療するか、相談の上決定しています。ただし妊孕については当院産婦人科が窓口となり信州大学と連携して対応しています。
② 多くのがん腫における標準的な手術、免疫療法を含めた薬物療法は当院で可能です。しかし、希望やセカンドオピニオンに準じて信州大学や近隣がん診療病院での治療を受けられる際には、緊急時の対応、治療導入後の維持療法、治療終了後の緩和ケアやお看取りなどを主治療施設との連携を図りながら支援しています。
③ 2020年に放射線治療装置の更新を断念したため、現在放射線治療を行うことはできません。放射線治療が必要な場合には、信州大学医学部附属病院、相澤病院、松本医療センター、伊那中央病院、飯田市立病院の5病院と放射線治療における診療連携の契約を交わしているため、希望に沿って紹介して対応しています。
④ 当院では様々ながん診療や患者支援に取り組んでいますが、医師やスタッフの数が少なく、また信州大学から派遣頂いている常勤医師の交代が毎年のようにあります。患者さんやご家族の方々に不自由をおかけすることが無いようにスタッフ一同において気を配っていますが、何かございましたらお気軽にご連絡ください。
⑤ 木曽地域は高齢の患者さんが多く、若い世代のご家族が離れて生活されている方も多いのが実情です。がん治療は患者さんお一人で行うものではありません。ご自身のこと、ご家族のこと、生活環境や社会的な問題など様々な課題が存在しています。誰か一人だけ頑張っても負担が大きくなるだけです。皆で一緒に知恵を出し合い、団結して治療に臨みましょう。
⑥ 現在、当院ではブロック注射を行っていますが、難治性疼痛の患者様のうち、特殊な神経ブロック注射が適応となる場合につきましては、当院の設備等が不十分で行えない状態にあります。そのため、このような場合については信州大学医学部附属病院麻酔科に紹介することが可能です。
診療科別がん診療の概要
① 内科
・消化器がん:胃がんや大腸がんなどの内視鏡的切除は可能な限り当院で対応します。大きな病変や難しい部位に存在する病変には、信州大学から指導医に来ていただくか、信州大学へ紹介して行います。
・肺がん:呼吸器内科にて肺がんの化学療法を行っています。
・血液がん:週1回信州大学からの派遣医師に相談しながら治療を行うか、血液内科外来を窓口に信州大学へ紹介して対応します。
② 外科
・消化器・肺・乳腺・甲状腺など複数の手術を担当します。
・切除が困難ながんに対する抗がん剤あるいは分子標的薬による治療を行います。
・信州大学のがんセンター医師による月1回の診療指導を受けています。
・消化器系の希少がんの手術や化学療法を行っています。
③ 婦人科
・子宮や卵巣などのがんを扱い、早期のものは当院で、進行したものは信州大学へ紹介して治療を行います。
・化学療法も当院で可能なものは行いますが、状況によって信州大学への紹介や相談を行います。
・若年性のがんに関して、採卵および卵子の保存は当院ではできません。このため信州大学へ紹介して対応します。内科や外科の患者さんも、まずは産婦人科に相談していただき、信州大学への紹介の窓口となります。
④ 小児科
・小児がんは極めて稀で、過去10年間、当院での診療実績はありません。
しかし発見された場合には、信州大学あるいはこども病院へ相談するシステムになっています。
・小児科で扱うのは中学生までで、高校生以上は成人としての診療となります。
⑤ 泌尿器科
・腎臓、膀胱、前立腺などの尿路系のがんに関して診断の窓口となります。
・がんの診断が得られて手術が必要な場合には信州大学へ紹介します。
・ホルモン療法は当院で積極的に行っています。
・若年男性患者さんの様々な臓器のがん診療において将来のために精子の保存をご希望される患者さんはご相談ください。
当院では精子保存はできませんが、相談して可能な施設を紹介します。
⑥ 整形外科
・骨などのがんは非常に稀で、過去10年間、当院での診療実績はありません。
しかし、骨や筋肉のがんが発見された場合には、信州大学へ紹介します。
・様々な臓器のがんによる骨転移に対する支援を行います。
⑦ 耳鼻いんこう科
・週2回の信州大学からの外来派遣医師が外来で対応します。
・切除や放射線治療、化学療法が可能な場合には信州大学へ紹介します。
⑧ 歯科口腔外科
・口の中や舌のがんが対象となりますが、信州大学から週2回の外来派遣医師により対応します。
・手術や放射線治療は信州大学にて行われます。
➈ 皮膚科
・週3回の信州大学からの外来派遣医師により、皮膚がんや悪性黒色腫の相談を受けます。
・切除や化学療法は信州大学にて行われます。
がん診療における様々な支援
当院では、患者さんやご家族からがんに関する疑問や悩みに対応するために「がん相談支援センター」を設置しています。センターには、がん専門相談員として研修を受けた医療ソーシャルワーカーと看護師が配置されており、患者さんやご家族のがんの治療や療養生活全般に関しての不安なことや困りごとなどについて、ご相談をお受けしています。ご質問・ご相談は電話、対面どちらでもお受けしています。どうぞお気軽にご相談ください。
当院では、緩和ケアを専門的に提供する医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリ専門職、医療ソーシャルワーカーなどで構成された緩和ケアチームがあります。緩和ケアチームは、各々の専門性を生かして問題を多面的に検討し、「つらさ」を抱える患者さんやご家族にあった方法を考え、主治医や担当看護師と協力しながら、対応させていただいています。
③ 栄養サポートチーム
がん治療において体調を整える栄養管理は非常に重要です。がん治療は継続することが非常に重要です。このため外来診療においては栄養科による栄養相談、そして入院患者さんは医師を含む多職種による栄養サポートチームが課題を洗い出し、改善を目指してお手伝いいたします。日々の食事や糖尿病やサルコペニアと呼ばれる筋肉量減少の問題など、まずはスタッフにご相談ください。
④ がんリハビリテーション
がん患者さんには身体的そして精神的に活動低下がみられる場合があります。栄養の問題のみならず、筋力を保持しサルコペニアに陥らないようにすることが、円滑な治療の実施へとつながります。また活動性の低下により転倒などにより骨折をきたすと予後が悪くなります。このため積極的なトレーニングをお勧めしますが、患者さんの状態により医師、リハビリスタッフ等が共同して実施可能かどうか判断します。お気軽にご相談ください。
⑤ 部位別がん検診
当院における通常の健康診断の他に、特に死亡者数の多い肺、大腸、胃、膵臓の各がんの早期発見だけに照準を合わせた肺がん検診、大腸がん検診、胃がん検診、膵臓がん検診を実施しています。予約等お問合せは木曽病院「人間ドック受付」までお願いいたします。
がん診療に関わる専門スタッフ
令和4年4月1日時点
部門 |
|
資格名称 |
取得者数 |
診療部 |
日本消化器外科学会 |
消化器がん外科治療認定医 |
1 |
日本がん治療認定医機構 |
がん治療認定医 |
3 |
看護部 |
日本看護協会 |
認定看護師(皮膚排泄ケア) |
1 |
日本看護協会 |
認定看護師(緩和ケア) |
1 |
日本看護協会 |
認定看護師(がん化学療法) |
1 |
医療技術部 |
日本乳がん検診精度管理中央機構 |
検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師 |
1 |
日本臨床細胞学会 |
細胞検査士 |
2 |
一般財団法人ライフ・プランニング・センター |
がんのリハビリテーション研修修了者 |
2 |
がん相談支援センター |
国立がん研究センター |
相談支援センター相談員基礎研修会① ② ② 修了者 |
1 |
国立がん研究センター |
相談支援センター相談員基礎研修会① ② 修了者 |
1 |
がん登録 |
国立がん研究センター |
院内がん登録中級者研修修了者 |
1 |